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東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)9号 判決

原告 ヨークシャー・インペリアル・メタルス・リミテッド

右代表者 ロナルド・モーレイ

右訴訟代理人弁理士 猪股清

同弁護士 藤本博光

同弁護士 吉武賢次

同弁護士 保田真紀子

同弁理士 前島旭

被告 特許庁長官 若杉和夫

右指定代理人 川又澄雄

同 渡辺弘昭

同 町田悦夫

同 東野好孝

主文

特許庁が昭和五〇年九月一日に同庁昭和四六年審判第三五号事件についてした審決を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者が求めた裁判

一  原告は、主文同旨の判決を求めた。

二  被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二当事者の主張

一  請求の原因(原告)

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四一年九月一四日、名称を「金属管板に金属管を固着する方法」とする発明につき、イギリス国において一九六五年九月一四日にした特許出願に基づく優先権を主張して、特許出願をし(昭和四一年特許願第六〇七一四号、以下この発明を「本願発明」という。)、この出願は昭和四四年三月一九日出願公告されたところ(特公昭四四―第六四六三号)、同年五月一九日旭化成工業株式会社から特許異議の申立があったので、昭和四五年一月三一日付手続補正書により願書に添付した明細書の補正をしたが、同年六月三〇日右補正を却下する旨の決定及び右異議申立を理由あるものとする旨の決定と同時に拒絶査定を受けた。そこで原告は、同年一二月二八日審判を請求し、これが特許庁昭和四六年審判第三五号事件として審理されたが、昭和五〇年九月一日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)があり、その謄本は同月二七日原告に送達された。なお、審決は出訴期間として三か月を附加した。

2  本願発明の要旨

管の一端部に向かって管の外壁と開孔の周壁との距離が増大するような関係にある管板の開孔に管を装着する工程と、前記管の内部に合成プラスチック材料のごとき材料からなる不活性の環状エネルギ伝達挿入片を位置する工程と、このエネルギ伝達挿入片中に爆発物を挿入する工程と、前記挿入片を介して伝達されるべき爆発エネルギが、先ず、前記開孔の周壁に対し最も近接する前記端部に近い管に作用しかつ前記開孔の他端部の方向へ伝播波を形成して移動するように前記爆発物を起爆する工程とを有し、これにより前記管と前記管板との間の金属的接合を得るようにした金属管板に金属管を固着する方法。(別紙第1図参照)

3  審決の理由の要点

本願発明の要旨は前項記載のとおりである。これに対して刊行物特公昭三三―四四一〇号公報(以下「引用例」という。)、特にその第一六図(別紙第2図のとおり)とその説明には、熱交換器の管板と管を結合するに際し、外壁に斜めの勾配をつけた管板の開孔に管を挿入し、この管に鋸屑等よりなる薬包外套で囲まれた爆薬を挿入し、爆薬を爆発させて管板と管を接合する方法が開示されている。

そして、引用例の第一六図では、管板の外側から爆薬を起爆させるように図示され、本願発明の起爆位置とは逆になっている。しかし、起爆位置を逆にし、爆発エネルギーの伝播方向を逆にしたことに意味があるとは、明細書中のエネルギーが反対方向に移動するようにしても充分な結果が得られるという記載からも認めることはできない。また、その効果も引用例のものに比し、特に顕著なものとは認められない。

したがって、本願発明が特許法二九条二項の規定により特許を受けることができないとした原審の認定は妥当なものと認められる。

4  審決を取消すべき事由

審決の理由中、引用例の第一六図(別紙第2図のとおり)とその説明に審決認定のような技術事項が記載されていることは争わないが、引用例記載のものと本願発明とを対比すると、爆薬を用いて金属二部材を結合する点において技術的課題を共通にするところはあっても、その解決原理は、引用例記載のものが爆発変形による噛み合い結合であるのに対し、本願発明は角度法による溶着結合であり、両者は、互いに技術的課題に対する解決原理を全く異にし、技術構成上顕著な相違があるものである。しかるに、審決は両者の相違点を看過誤認し、本願発明をもって引用例から容易に発明できるものと誤った判断をしたものであり、違法として取消されるべきである。以下詳論する。

(一) 本願発明の技術原理と構成について

本願発明の管と管板を結合する技術は広い意味で角度法に属するものである。角度法とは、二部材の金属を爆薬を用いて結合させる技術で、①結合すべき金属二部材を互いにある角度をもって対向して配置し、②爆薬を結合すべき面にほぼ相当して設置し、③爆薬を二部材の接する頂角附近で起爆し、そこから結合される面に沿う方向に順次爆発させ、④二部材を衝突させ、その間に形成される溶融金属合金を進行する衝突ラインにより押し出すことによって二部材を溶着結合させるものである。本願発明の要旨と角度法の技術構成を対応させると以下のとおりである。

(1) 管と管板開孔との関係

本願発明の要旨中の「管板の一端部に向かって管の外壁と開孔の周壁との距離が増大するような関係にある管板の開孔に管を装着する工程」は、角度法の①の構成に当るものであり、このことは、本願発明の明細書(以下「本願明細書」という。)の発明の詳細な説明の項中の「………管板中に延在する管を外方向に徐々に減径させ、一方開孔は平行な孔としても物理的配置は達成される。」との記載からも明らかである。

(2) 爆薬の設置と爆発法

本願発明の要旨中の「……爆発エネルギが、先ず、前記開孔の周壁に対し最も近接する前記端部に近い管に作用し、かつ前記開孔の他端部の方へ伝播波を形成して移動するように前記爆発物を起爆する工程」は、角度法の②、③の構成に当るものである。すなわち、右の「……開孔の周壁に対し最も近接する前記端部に近い管……」とは角度法の③の構成における頂角附近のことであり、「爆発エネルギが、先ず……作用し……」とは爆薬を頂角附近で起爆することである。また、本願明細書の発明の詳細な説明の項中の「……爆発物5は管板の部分4内にほぼ延在するよう管中に定位される。」との記載は爆薬が角度法の②の構成のように結合される部材面にほぼ相当して設置されることを明らかにしている。

(3) 結合態様

本願発明は、管内の爆薬の爆発エネルギーによって管と管板とを角度法の④の構成と同様に溶着結合させるものである。これは、管内の爆発エネルギーが頂角附近から管板と管の距離が増大する方向へ向って移動し、それに相応して管の外壁が順次管板の内壁に衝突し、その衝突により管と管板の間に形成される溶融金属合金を進行する衝突ラインが押出すことによって管と管板を溶着させるからである。本願明細書にはこのような詳細な説明記載はないが、角度法自体は公知の技術であったから、本願発明の構成について前記(1)、(2)のとおり角度法を採用していることが認められること及び本願明細書に管と管板の結合態様について「金属的接合」又は「溶着」の用語が記載されていることから明らかである。

(二) 引用例記載の技術原理と構成について

引用例の特許請求の範囲の項には「管端部を互いに嵌め合わせるか、管端部を互いに衝合してスリーブを嵌めるか、管端部をフランジ内へ嵌めるか、或いは管端部をボイラの鏡板内へ嵌めて、ガス圧力の爆発的な増大による変形によって金属管を中空体、例えばスリーブ管、フランヂ及びボイラの鏡板に結合する金属管と中空体との結合方法において、爆発ガスによって回転対称的に管軸線から管内壁に向って高い圧力を作用させることを特徴とする方法。」と記載されており、この記載と発明の詳細な説明の項の記載によると、引用例に記載された技術は、爆発ガスによって回転対称的に管軸線から管内壁に向って高い圧力を作用させ、ガス圧力の爆発的な増大による変形によって金属管と中空体とを噛み合い結合させる方法に関するものであり、以下の構成を有するものであることが明らかである。

(1) 管と中空体(第一六図に記載のものにおいては管板開孔)との関係

管端部を囲む中空体には管の変形すなわち膨み又は拡開した管端部分が噛み合うべき部分として、いわゆる「かしめ」による結合における「座」に相当する部分が準備されており、第一六図に記載のものにおいては管板開孔の斜めの勾配部分がそれにあたる。このことは、引用例の以下の記載、すなわち二頁右欄二六行ないし四三行目の記載、殊に「この膨らみの中に管端部の非弾性的の材料が容易に曲って入るようにする。」(三三、三四行目)及び「この場合管端部は急傾斜で上方に曲るので、管をスリーブから引き出すにはより大きな抵抗に直面する。」(四〇行ないし四三行目)との記載、「管端部がスリーブ中に殊に緊密に且つ不動に接触することが可能になる。」(三頁左欄三行ないし五行目)との記載、第一図及びその説明としての、「スリーブ1はその内壁に例えば矩形の溝3及び4を備え、爆破の際にこれらの溝の中へ管端部の材料が可塑的に埋まる。」(三頁左欄二六行ないし二九行目)との記載、第二図及びその説明としての、爆裂の際には、スリーブは薄い壁厚の箇所で変形せしめられる旨(三頁左欄三八、三九行目)の記載、第七図及び第八図、第一五図(別紙第3図のとおり)とその説明としての、フランヂ66はその孔の中に溝67を有し、その外縁68は斜めに削り落されており、爆発後、管65は端部69において拡げられているので、フランヂの斜面68に接触し、且つ溝67中へ押し込まれている旨(八頁左欄一八行ないし三一行目)の記載、第一六図及びその説明としての、82は爆発変形により嵌め込まれた管を示し、その端部83は拡げられていて、管板の外壁の斜面に接触している旨(八頁左欄三二行ないし末行)の記載、管系中に取付体を接続する場合、取付体に溝を設け、爆発に際して管がこれらの溝の中に埋没するようにする旨(八頁右欄一行ないし六行目)の記載によって明らかにされている。

(2) 爆薬の設置と爆発法

爆薬は、点火栓の周りに管軸線に対して回転対称的に配置し、点火栓によりその芯部において起爆し、爆発を回転対称的に順次、周辺部へ伝播させるものであり、第一六図に記載のものにおいても変りはない。このことは、引用例の「管端部の全周上に爆裂力を一様に作用させるためには、爆薬と点火栓とを管の軸線に対して回転対称に配置することが必要である。」(四頁右欄二五行ないし二七行目)との記載、第五ないし第八図、第一六図とその説明記載から明らかである。

(3) 結合態様

管内の爆薬の爆発エネルギーによって管と中空体とを、第一六図に記載のものにおいては管端部と管板開孔の勾配部とを噛み合わせ結合させるものである。これは、管内の爆発エネルギーが爆薬の芯部すなわち管軸線から回転対称的に管の内壁に向かって垂直に移動し、管端部の全周上に一様に作用し、これにより拡開した管端部が中空体、第一六図に記載のものにおいては管板開孔の勾配部に緊密にかつ不動に衝突して噛み合うからである。このことは、引用例の前記(1)の各記載によって明らかである。なお、第一六図に記載のものについてみても、仮に管端部と管板開孔の衝突によりその間に溶融金属合金が形成されるとしても、爆発エネルギー(波動)の一部が管板の外壁面の側から内方へ向かって伝播して右合金による溶着を妨げるものと考えられる。

(三) 本願発明と引用例記載の技術との相違点について

前記(一)、(二)のとおり、本願発明と引用例記載の技術とは、管とこれを囲む中空体(管板開孔)とを結合させる技術的解決原理を全く異にし、結合部材の配置関係、爆薬の設置と爆発法及び結合態様のいずれにおいてもその構成を異にするものである。

(四) 審決の判断の誤り

審決は、本願発明と引用例とくにその第一六図に記載のものとの間の右のような相違点について全て看過誤認し、単にうわべの相似性から本願発明をもって引用例から容易に発明できると誤った判断をしたものであって、違法として取消されるべきである。

二  請求の原因に対する認否と主張(被告)

1  請求の原因1ないし3の事実は認め、同4の主張は争う。

2  (一) 請求の原因4の(一)の主張に対して

本願明細書には本願発明が角度法を応用したものであることやそのことを示唆すべき何らの記載もない。すなわち、本願発明の要旨に徴し、それがただちに角度法の技術構成を示すものとは解されないし、本願明細書の全体を通じてみても、角度法による効果とみられるような記載もなく、管と管板の結合態様に関して、「金属的接合」とか「溶接」という用語が記載されてはいるが、「溶着」という用語は記載されておらず、右結合態様が溶着であると認めうる記載はない。原告は、本願発明において衝突ラインが管板の内方から外方へ進行し溶着が行われると主張するが、そのようなことは明細書に記載がなく、明細書に記載のない事項を採り上げるわけにはいかない。

(二) 請求の原因4の(二)の主張に対して

引用例には「かしめ」なる用語は記載されていない。引用例記載の技術において、原告主張の如く管端部が爆薬の爆発力によって変形するとしても、そのことは管端部と中空体が溶着しないことを意味するものではない。また、引用例の第一ないし第八図及び第一五図に記載のものは、スリーブあるいはフランヂを変形して拡開した管端部とを噛み合わせているが、このことも二部材の溶着を生じないことを意味するものではない。二部材を結合するにあたっては、溶着のみでは不安定な場合、噛み合わせを併用して結合を丈夫なものとすることはしばしば行われることである。

(三) 請求の原因4の(三)の主張に対して

本願発明も引用例の第一六図に記載の技術もともに管板開孔に傾斜部を有し、管内に爆薬を設置してこれを爆発させ、その力により管端部を拡開して右傾斜部と噛み合い結合させる方法であることにおいて同様のものである。したがって、本願発明の構成は引用例記載の技術から容易に想到しうる程度のものというべきである。

第三証拠関係《省略》

理由

一  請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、審決に原告主張の違法が存するか否かについて検討する。

1  本願発明の技術原理と構成

本願発明の要旨は前記のとおりであるところ、成立に争いのない甲第二号証の一(本願発明の特許出願公告公報)によると、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、本願発明の要旨に関し、「本発明は、一端部が他端部よりも大口径にされたテーパ状の管板の開孔に管を装着させる工程と、前記管の内部に合成プラスチック材料のごとき材料からなる不活性の環状エネルギ伝達挿入片を位置する工程と、このエネルギ伝達挿入片中に爆発物を挿入する工程と、爆発エネルギが先ず、前記開孔の小口径端部に近接する管に作用しかつ前記開孔の大口径端部の方向へ伝播波を形成して移動するように前記爆発物を起爆する工程とを有し、これにより前記管と前記管板との間の金属的接合を得るようにした金属板に金属管を固着する方法を提供するものである。」(一頁右欄三〇行ないし四一行目)、「同様のテーパ輪郭は管板中に延在する管を外方向に除々に減径させ、一方開孔は平行な孔としても物理的配置は達成される。」(一頁右欄末行ないし二頁左欄二行目)との説明記載があるほか、「本発明の方法においては、その初期において管は開孔のテーパ方向長さ全体にわたって管板に接触しない。管が長さ方向全体にわたり管板に接触された場合の均一な膨張とは異なり、管は続く起爆により開孔の大口径外方へ向かって次第に変形する。このことは、管と管板との間の良好な金属的接合を得る。」(三頁左欄四五行ないし右欄四行目)との説明記載があり、さらに実施例の説明として、別紙第1図のものについて、「管1は管板2の開孔中に位置している。この開孔は均一口径の軸線方向部分3および(この軸線方向部分3から隔るに従って)徐々に増大する口径を有し円錐形状をなす延長した軸線方向部分4とからなる。」、「この均一口径部分3は本発明の実施のため必ずしも必要ではなく、開孔の全体を口径が変化するようにしても良い。」(二頁左欄九行ないし一六行目)、「電気起爆の爆発物5は管板の部分4内にほぼ延在するよう管内に定位される。爆発物5は伝達挿入片6によって包囲され、しかして伝達挿入片6は管中に押込まれ、かつ爆発物5は伝達挿入片に押込まれている。」(二頁左欄三〇行ないし三四行目)、「爆発物は電気加熱要素7の如き通常の方法を用いて点火され図の左方から起爆する。」(二頁左欄四四行ないし四六行目)とそれぞれ記載があるほか、さらに、「開孔の大口径端部は符号9で示すように適宜にまるめあるいは面取りしてあるので、爆発物より解放されたエネルギの同時の作用が管にこのまるめたあるいは面取り部の輪郭に向かう力を与えこれによってその位置における管の周囲を裂いて管の余剰寸法を除去し、管に円滑な入口を形成する。」(二頁右欄一三行ないし一八行目)との説明記載があることが認められる。

以上の各事実に《証拠略)をあわせ考えると、爆発手段を用いて金属板を接合する方法に関し、二枚の金属板を一定の角度を保った接合点をもって対置させ、その一方の金属板の外面に爆薬を板状に設置し、右接合点において起爆することにより金属板を接合する方法が本願出願前すでに傾斜法または角度法の名称で公知の技術となっており、この方法によると、接合境界面に再結晶、相互拡散あるいは溶融などの現象が起り、完全な金属的接合が得られるものであること、本願発明は、明細書中に明示されてはいないが、金属管板に金属管を固着するために、右傾斜法を応用したものであって、管を挿入する管板開孔の周壁に傾斜面を設けて、同傾斜面と管外壁面との距離が管端に向けて増大するようにすることによって両面を角度をもって対向させ、爆薬は管内にその外壁が管板開孔の周壁と角度をもって対向する位置に相応させて設置するとともに、その点火栓を頂角附近の爆薬の端部に設置し、点火栓により起爆を頂角附近で行なって爆発を管端に向けて順次進行させ、その爆発力により管を頂角附近から管端に向かって順次拡開させると同時に管外壁と管板開孔周壁とを衝突させて良好な金属的接合を得るようにした構成のものであると認めることができる。もっとも、前掲甲第二号証の一によると、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、本願発明における爆発とそのエネルギーの進行方向に関して、「しかし、このエネルギが反対方向に移動するようにしても充分な結果を得ることが可能である。」(一頁右欄四一行ないし四三行目)と記載されていることが認められるが、この記載は、前記認定の本願明細書の各記載及び添附図面の内容に照らし、本願発明の要旨とするところと明らかに矛盾するものであるから、本願発明に関しては無意味な記載とみて処理するほかなく、これをもって本願発明についての前記認定を左右するには値しないものといわざるをえない。

2  引用例記載の技術原理と構成

引用例に審決認定のような技術事項の記載があることは、原告の認めて争わないところであるが、《証拠省略》によると、引用例記載の技術については、さらに次の事実が認められる。すなわち、引用例は金属管の端部を互いに嵌め合わせるか、あるいは互いに衝合する管端部にスリーブを嵌め、次いで爆薬による変形を管の内方から行なわしめることにより、金属管を不分離に結合する方法の発明に関するものであるが、それは、管端部の管軸線から回転対称に管内壁の全周上に向けて爆裂力を一様に作用させることにより、管端部を拡開変形させて中空体と噛み合わせて機械的に結合させるものであること、そのために、別紙第2図に示すように爆薬は拡開を予定する管端部内に管軸線に対して回転対称的に配置し、管軸線に沿った爆薬の芯部に点火栓を設置し、起爆は点火栓により爆薬の管軸線に沿った芯部において同時に行い、爆発エネルギを管軸線から回転対称的に管端部内壁の全周上に作用させて管端部を拡開させ、これを中空体の開孔部分と噛み合わせる構成のものであること、審決摘示の管板の開孔外壁につけた「斜めの勾配」は、本願発明における別紙第1図記載9の面取り部に相当する斜めに削り落された中空体の開孔端部であって、本願発明における別紙第1図記載4のテーパー状の軸線方向部分(前認定のとおりのもの)とは技術構成上異質のものであることを認めることができる。

3  本願発明と引用例記載の技術との対比

以上の認定によれば、本願発明と引用例記載の技術とは、共に爆発力を用いて中空体(金属管板)に金属管を固着する方法に関するものではあるが、本願発明はいわゆる傾斜法(角度法)を用いて金属管と中空体との金属的結合を得ようとするものであるのに対し、引用例記載のものは、回転対称的に管軸線から管内壁に向う全周上で同時に爆発を行ない、これによる爆発変形によって金属管を中空体に結合する機械的結合方法であって、両者は技術的課題の解決原理を異にするものというべきである。これを実施例に即してみると、その具体的構成において、引用例記載のものは、本願発明におけるテーパー状の軸線方向部分4を欠いており、また、本願発明においては点火栓による起爆を管外壁と管板開孔のテーパー状周壁との頂角附近で行ない、爆発を管端に向けて順次伝播させるのに対し、引用例記載のものは爆薬の管軸線に沿った芯部に点火栓を貫通させて起爆を右芯部で同時に行ない、爆発を管軸線から管内壁に向けて回転対称的に行なうものである点において明らかに異なるものである。

4  審決の誤認

審決は、本願発明と引用例記載のものとの間に以上のような極めて重要な差異があることについてなんら検討することなく、単に「この引用例の第一六図では管板の外側から爆薬を起爆させるように図示され、本願発明の起爆位置とは逆になっている。しかし、起爆位置を逆にし、爆発エネルギーの伝播方向を逆にしたことに意味があるとは、明細書中のエネルギーが反対方向に移動するようにしても充分な結果が得られるという記載からも認めることはできない。」と認定判断したうえ、本願発明をもって引用例の記載から容易に発明しうるものと判断している。

審決のこの認定判断は、本願発明と引用例記載のものとの前認定の差異点に徴し、誤ったものであることは明らかである。技術原理を異にするものに基づいて容易になしうる発明と断定するためには、よほど明らかな具体的理由づけが必要である。審決は、これを欠いているばかりでなく、判断を誤ったものとして違法とせざるをえない。

三  よって、審決を違法としてその取消を求める原告の請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石澤健 裁判官 楠賢二 岩垂正起)

〈以下省略〉

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